STD
性感染症
性病とは
性病とは、原因菌が体内に入ることで感染する感 染症のことです。主な感染経路は性行為ですが、 他の感染経路も存在します。
厚生労働省の報告によると、主な性感染症の女性だけでの年間報告数(令和1年定点報告)は以下の通りとなっています:
- クラミジア: 14,558件
- 性器ヘルペス: 5,363件
- 梅毒: 8,701件
- 尖形コンジローマ: 2,029件
- 淋病: 2,260件
※これらの数値は、全国約1,000カ所の産婦人科等医療機関からの定点報告によるものです。
主な性感染症とその症状
クラミジア感染症
クラミジア感染症は、性感染症の中で最も感染者が多く、日本では推定100万人以上の感染者がいるとされています。早期発見・早期治療が重要な疾患です。
感染の実態
年齢層による感染率は以下の通りです:
- 15-19歳の女性:18%
- 20-24歳の女性:33%(最も高い)
- 25-29歳の女性:22%
妊婦の感染率は2.4~5%で、特に20代前半で約9%、後半で約4%となっています。また、大学生・専門学校生では、女性9.1%、男性7.0%の感染率が報告されています。
症状
最も重要な特徴は、感染していても症状が現れにくいことです:
- 女性の約80%が無症状
- 症状がある場合:
- 子宮頸管炎
- 不正出血
- 骨盤内炎症性疾患(PID)
- 妊娠・出産への影響(不妊、流早産のリスク)
咽頭クラミジア
- 性器クラミジア陽性者の10~26%が咽頭にも感染
- ほとんど無症状か、軽度の咽頭痛や違和感のみ
検査・診断
高精度な検査方法を用いて診断を行います:
- 核酸増幅検査(NAAT):最も信頼性の高い検査
- 抗原検査:迅速検査として使用
- 血清診断:補助的検査として実施
治療
治療には主に以下の抗菌薬を使用します:
- アジスロマイシン単回投与(妊婦も使用可能)
- ドキシサイクリン7日間投与
治療後2-3週間での効果判定が必要です。
なお、感染予防には、定期的な検査とパートナーの同時治療が重要です。
淋菌感染症
淋菌(Neisseria gonorrhoeae)による感染症で、近年は抗菌薬耐性菌の増加が問題となっています。
感染経路
- 性行為(膣、肛門、口腔)による粘膜接触
- 妊婦から新生児への産道感染(新生児結膜炎の原因となる)
主な症状
男性の症状
- かゆみや排尿痛
- 尿道から黄白色の膿が出る
- 潜伏期間は2~9日
女性の症状
- 多くの場合は無症状
- 子宮頸管炎
- おりものの変化や違和感
- 骨盤内炎症性疾患(PID)のリスク
咽頭感染
- 喉の痛みや違和感
- 風邪に似た症状
眼の症状
- 充血
- 黄色い目やに
- まれに失明などの重篤な合併症のリスク
直腸感染
- 肛門のかゆみ
- 下痢や血便
全身症状
重症化した場合:
- 発熱
- 関節の痛み
- 腫れ
検査・診断
- PCR法:高感度で、尿や分泌物、咽頭うがい液を使用
- 培養検査:耐性菌の確認に重要
- 迅速検査:即日結果が得られるが、精度はPCR法に劣る
治療
- セフトリアキソン(筋注)+アジスロマイシン(経口)の併用
- 耐性菌の増加により、治療後の再検査が推奨される
- 治療後3か月以内の再検査が推奨
梅毒
梅毒は梅毒トレポネーマ(Treponema pallidum)という細菌による感染症で、近年急増しています。2017年には5,820人(過去5年で6.7倍)の報告があります。
感染経路
- 主に性行為による感染
- 母子感染(妊娠中に胎児へ感染)
- 口に傷がある場合、キスでも感染の可能性
症状の進行段階
第1期(感染後3-9週)
- 初期硬結:感染部位に直径1cmの痛みのない赤い硬結や潰瘍
- 硬性下疳:痛まない硬い(軟骨様)潰瘍
- 6週間頃から両側鼠径部のリンパ節が痛まず硬く腫張
- 3週間ほどで消退
- 女性の好発部位:子宮膣部、大陰唇・小陰唇周辺
第2期(3ヶ月以上)
- バラ疹:体幹、手掌、足底、顔面に5-20mmの薄い紅斑
- 梅毒性丘疹:暗紅色の無痒性丘疹が全身に多発
- 粘膜疹:口唇、口腔内に境界明瞭な灰白色斑、びらん、白苔、潰瘍
第3期(3-10年)
- ゴム腫:皮膚・骨・筋肉、肝臓、腎臓などにゴムのような弾力のある腫瘍
第4期(10年以上)
- 心臓血管系症状:大動脈瘤、大動脈破裂
- 中枢神経系症状:進行麻痺、認知症など
- 致死的となる可能性
検査
- 検査時期:感染後3-6週
- STS(脂質抗原検査)とTP抗体検査を併用
- RPR法:感染後2-5週で陽性(偽陽性5-20%)
- TPHA法:感染後3ヶ月以降に陽性(偽陽性率0.1-0.5%)
- 治癒後も長期間陽性が継続
治療
- ペニシリン内服が基本
- 第1期:2-4週間
- 第2期:4-8週間
- 1日3回の服用が必要
性器ヘルペス
性器ヘルペスは、単純ヘルペスウイルス(HSV)1型または2型の感染により発症する性感染症です。初発と再発を繰り返すことが特徴で、初発例ではHSV-1型と2型が同程度に見られますが、再発例のほとんどは2型によるものです。
症状と経過
潜伏期間と初期症状
- 性的接触後2~10日の潜伏期間
- 突然の38℃以上の発熱
- 全身の倦怠感
主な症状
- 陰唇・小陰唇から腟前庭部・会陰部にかけての浅い潰瘍または水疱性病変
- 鼠径リンパ節の腫脹と圧痛
- 排尿困難
症状の経過
- 4-5日で症状は軽減
- 潰瘍やびらんは2週間で軽快
- リンパ節腫脹は3週間で消失
合併症
- ヘルペス脳炎や髄膜炎(女性3割、男性1割):強い頭痛・項部硬直などの髄膜刺激症状
- 末梢神経麻痺:排尿困難や便秘
診断
イムノクロマト法による抗原検出キット(デルマクイック®HSV)を使用し、水疱潰瘍またはびらん中のHSV抗原を5-10分で検出できます。
治療
抗ウイルス薬治療
- バラシクロビル塩酸塩(バルトレックス®錠500mg)
- 通常:1回1錠、1日2回、5日間
- 初発時:10日間まで延長可能
- 再発が多い場合:1回1錠、1日1回、1年間の予防投与
その他の治療
- 軽症例:5%アシクロビルや3%ビタラビン軟膏を1日数回、5-10日間塗布
- PIT(Patient Initiated Therapy):初期症状を自覚した時点で
- ファムシクロビル1,000mgを1日2回
- またはアメナリーフ1,200mg(6錠)を1回内服
尖圭コンジローマ
尖圭コンジローマは主にHPV(ヒトパピローマウイルス)の6型または11型による感染症です。感染は非常に一般的で、20代女性の40%はHPVを潜在的に保持しており、女性の60~80%は生涯で一度は感染するとされています。
感染の特徴
- 一回の感染で、パートナーの3分の2は9か月以内に感染
- 発生頻度は10万人あたり30人
- 20~30%は3カ月以内に自然消退することがある
- 一方で、がんに移行するリスクもある
潜伏期間
通常2.3ヶ月(3週間から6ヶ月の幅あり)
症状
好発部位
- 女性器から肛門部(大小陰唇、膣前庭、子宮頸部、膣)
- 肛門周囲、肛門内
- 尿道口
- まれに直腸内、膀胱内
- 口や喉にも感染することがある
症状の特徴
- イボ状の病変(3ミリ~数センチ)
- 色は白、ピンク、褐色
- 先がとがって固く、ザラザラした鶏冠状、丘疹状の隆起
- 帯下の増加
- 疼痛や掻痒
- 性交時の痛みや出血が出現することがある
治療
イミキモド5%クリーム(ベセルナクリーム)塗布
- 使用方法:週3回(隔日)、10時間塗布
- 就寝前に塗布し、起床後に洗い流す
- または昼12時に塗布し夜10時に洗い流す
- 効果:完全消失率59%
- 副作用(80%以上に発生):
- 紅斑(54%)
- びらん(34%)
- 表皮剥離(32%)
- 浮腫(17%)
その他の治療法
- 液体窒素による凍結療法
- 外科的切除
- CO2レーザー蒸散法
- 電気メスによる焼灼
経過観察
- 3か月以内に約25%が再発
- 治療後3ヶ月間のフォローアップが必要
予防
- 4価HPVワクチン(ガーダシル)
- 9価HPVワクチン(シルガード9)による予防が期待できる
性器カンジダ症
カンジダ菌は体内の常在菌の一種で、通常は問題を引き起こしませんが、様々な要因で異常増殖すると症状が現れます。
感染の特徴
- 女性の約20%が経験
- そのうち40%は年に2回以上再発
- 必ずしも性感染症ではなく、性行為未経験でも発症する可能性がある
症状
- 外陰部の強いかゆみ
- 特徴的なおりもの(白く粘度の高い「カッテージチーズ状」)
- 外陰部の発赤、腫れ、灼熱感
- 排尿時や性交時の痛み
主な原因
- 免疫機能の低下(疲労、ストレス、妊娠)
- 抗生物質の使用
- 月経前
- ホルモンの変化
- 糖尿病
- 性行為
治療
膣カンジダ症の治療
- 抗真菌薬の使用
- 外用薬:クロトリマゾール、ナイスタチンの膣剤
- 内服薬:フルコナゾールなど
- 軽症は数日間の治療で改善
- 再発性の場合は長期的な維持療法が必要
予防と生活指導
- 通気性の良い綿の下着を着用
- シャワーや水泳後は完全に乾燥させる
- 濡れた水着や湿った衣類はすぐに着替える
- 生理用ナプキンはこまめに交換
- 排便・排尿時は前から後ろに拭く
マイコプラズマ・ウレアプラズマ感染症
マイコプラズマ(M.genitaliumやM.hominis)やウレアプラズマ(ureaplasma spp)は、性器や咽頭に感染する性感染症です。
感染の特徴
- 性行為やキスなどで感染
- 一回の性的接触で30~50%の確率で感染
- 潜伏期間は1~5週間
症状
ほとんどの場合は無症状ですが、以下のような症状が現れることがあります:
- 咽頭不快感
- 膣の違和感
- 排尿痛、頻尿
- 性器のかゆみ
- おりものの増加
- 性器の異臭
検査
- 培養検査:7日程度で結果判明
- マイコプラズマのみPCR検査:1日で結果判明
- 感染の機会があった後、1日程度経過すれば検査可能
治療
- アジスロマイシン(ただし、耐性菌が増加傾向)
- ビブラマイシン(ドキシサイクリン)
- レースビット(シタフロキサン)
合併症
男女ともに不妊症につながる可能性があります:
- 男性:精巣上体炎
- 女性:卵管炎、腹膜炎、子宮外妊娠
膣トリコモナス症
膣トリコモナス症は、大きさ0.01mm~0.025mmの腟トリコモナス原虫による感染症です。性行為による感染だけでなく、下着やタオル、便器、浴槽などからも感染する可能性があり、性行為経験のない女性や幼児にも感染することがあります。
症状
約10~20%は無症状ですが、症状がある場合は以下のようなものが現れます:
- 悪臭の強い泡状黄白色の帯下増加
- デリケートゾーンの強いかゆみや痛み
- 膣壁の発赤
- 子宮腟部の溢血性点状出血
潜伏期間は約10日間です。
検査方法
主に以下の3つの方法で診断を行います:
- 顕微鏡検査:腟トリコモナス原虫(洋ナシ形でべん毛を有し、回転する)の活動を観察(診断率約60-70%)
- 培養検査:診断率90%
- リアルタイムPCR法(TaqManPCR法)
治療
以下の治療を組み合わせて行います:
- メトロニダソール内服(フラジール®内服錠250mg)
- 1回1錠、1日2回、10日間
- メトロニダソール腟錠(フラジールF®腟錠200mg)
- 1回1錠、1日1回、7日間
治療上の注意点
- 治療中および治療後3日間は飲酒を避ける必要があります(腹痛、嘔吐、潮紅などのアンタビュース様作用の危険性)
- 追加治療が必要な場合は1週間あける
- 治療成功率は9割以上
性感染症ではないですが・・・
細菌性膣症
細菌性膣症(BV)は、膣内の正常な細菌バランスが乱れることで発症する状態です。通常、膣内の常在菌の75-95%を占める乳酸桿菌(デーデルライン桿菌)が減少し、様々な好気性菌や嫌気性菌が異常増殖することで起こります。
原因となる細菌
- 好気性菌:
- Streptococcus agalactiae
- Escherichia coli
- G. vaginalis など
- 嫌気性菌:
- Peptostreptococcus spp.
- Finegoldia spp.
- Parvimonas spp.
- Anaerococcus spp.
- Atopobium species
- Mobiluncus spp.
- Bacteroides spp.
- Prevotella spp.
症状
約半数は無症状ですが、症状がある場合は以下のようなものが現れます:
- 性器周囲やおりものに魚臭のような異臭(イカ臭いや魚のような臭い)
- 灰色・漿液性・均質性・サラサラとした帯下の増加
- 下腹痛
- 不正出血
検査
- 鏡検(特徴:炎症細胞が少ない)
- 腟分泌物の培養検査
治療
- 抗菌薬投与前の生理食塩水による腟洗浄
- メトロニダゾール(フラジール®腟錠250mg)による治療
- 1回1錠、1日1回、7~10日間の腟内投与